
花を詠んだ俳句・短歌 3
(江戸時代、明治時代以降)
桜 在原業平 (9世紀)
世の中に たえてさくらの なかりせば
春の心は のどけからまし
梅 菅原道真 (10世紀)
東風吹かば にほひおこせよ 梅の花
あるじなしとて 春な忘れそ
柿 正岡子規 (19世紀)
柿食へば 鐘が鳴るなり 法隆寺
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万葉集
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在原業平 菅原道真 紀貫之
紫式部 西行 藤原定家
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松尾芭蕉 加賀千代女
与謝蕪村 小林一茶
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正岡子規 高浜虚子
与謝野晶子 石川啄木
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<江戸時代>
■松尾芭蕉 1644年~1694年
(まつおばしょう)
すみれ(菫)
「山路(やまじ)きて
なにやらゆかし
菫草(すみれぐさ)」
野ざらし紀行
松尾芭蕉
うめ(梅)
「春もやや
けしきととのう 月と梅」
松尾芭蕉
さくら(桜)
「花の雲 鐘は上野か 浅草か」
松尾芭蕉
「さまざまの
事おもひ出す 桜かな」
松尾芭蕉
なずな(薺)
「よく見れば
なづな花咲く 垣根かな」
松尾芭蕉
やまぶき(山吹)
「ほろほろと
山吹散るか 滝の音」
松尾芭蕉
つつじ(躑躅)
「つつじいけて
其陰(そのかげ)に
干鱈(ひだら) さく女」
松尾芭蕉
くり(栗)
「行く秋や
手をひろげたる 栗のいが」
松尾芭蕉
あじさい(紫陽花)
「紫陽花や
藪(やぶ)を小庭の 別座敷」
松尾芭蕉
あまちゃ(甘茶)
「灌仏や
皺手あはする 数珠の音」
松尾芭蕉
べにばな(紅花)
「眉掃(まゆは)きを
俤(おもかげ)にして
紅粉(べに)の花」
松尾芭蕉
ねむのき(合歓の木)
「象潟(きさかた)や
雨に西施(せいし)が
ねぶの花」
奥の細道
松尾芭蕉
むくげ(木槿)
「道のべの
木槿は馬に 食はれけり」
野ざらし紀行
松尾芭蕉
はぎ(萩)
「一家(ひとつや)に
遊女も寝たり 萩と月」
松尾芭蕉
「白露を
こぼさぬ萩の うねりかな」
松尾芭蕉
おみなえし(女郎花)
「ひょろひょろと
猶(なお)露けしや 女郎花」
松尾芭蕉
そば(蕎麦)
「蕎麦はまだ
花でもてなす 山路かな」
松尾芭蕉
しゅうかいどう(秋海棠)
「秋海棠
西瓜(すいか)の色に
咲きにけり」
松尾芭蕉
ちゃ(茶)
「朝茶のむ
僧しづかさよ 菊の霜」
松尾芭蕉
かえで(楓)
「色付くや
豆腐に落ちて 薄紅葉」
松尾芭蕉
こんにゃく(蒟蒻)
「こんにゃくの
さしみも些し(すこし)
うめの花」
松尾芭蕉
すいせん(水仙)
「其(そ)のにほひ
桃より白し 水仙花」
松尾芭蕉
「初雪や
水仙の葉の たはむまで」
松尾芭蕉
「水仙や
白き障子の とも映り」
松尾芭蕉
つばき(椿)
「落(おち)ざまに
水こぼしけり 花椿」
松尾芭蕉
■河合曽良 1649年~1710年
(かわいそら)
うつぎ(空木)
「卯の花を
かざしに関の 晴れ着かな」
河合曽良
はぎ(萩)
「行き行きて
たふれ伏すとも 萩の原」
河合曽良
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■加賀千代女 1703年~1775年
(かがのちよじょ)
あさがお(朝顔)
「朝顔や
釣瓶(つるべ)とられて
もらひ水」
加賀千代女
ききょう(桔梗)
「桔梗の花
咲く時ぽんと 言ひそうな」
加賀千代女
さるすべり(百日紅)
「散れば咲き
散れば咲きして 百日紅」
加賀千代女
すいせん(水仙)
「水仙の
香やこぼれても 雪の上」
加賀千代女
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■与謝蕪村 1716年~1784年
(よさぶそん)
なのはな(菜の花)
「菜の花や
月は東に 日は西に」
与謝蕪村
ふくじゅそう(福寿草)
「朝日さす
老師が家や 福寿草」
与謝蕪村
うめ(梅)
「しら梅に
明(あく)る夜ばかりと
なりにけり」
与謝蕪村
「二(ふた)もとの
梅に遅速を 愛す哉」
与謝蕪村
なずな(薺)
「妹(いも)が垣根
三味線草の 花咲きぬ」
与謝蕪村
ぼたん(牡丹)
「牡丹散って
うちかさなりぬ 二三片」
与謝蕪村
つつじ(躑躅)
「近道へ
出てうれし野の 躑躅かな」
与謝蕪村
うつぎ(空木)
「卯の花や
妹が垣根の はこべ草」
与謝蕪村
さるすべり(百日紅)
「百日紅
ややちりがての 小野寺」
与謝蕪村
けいとう(鶏頭)
「秋風の
吹きのこしてや 鶏頭花」
与謝蕪村
すすき(薄)
「山は暮れて
野は黄昏(たそがれ)の
芒(すすき)かな」
与謝蕪村
「狐火の
燃(もえ)つくばかり
枯尾花(かれおばな)」
与謝蕪村
ちゃ(茶)
「行(ゆく)としの
めざまし草や
茶筌賣(ちゃせんうり)」
与謝蕪村
ねぎ(葱)
「葱買(こ)うて
枯木の中を 帰りけり」
与謝蕪村
すいせん(水仙)
「水仙や
寒き都の ここかしこ」
与謝蕪村
■本居宣長 1730年~1801年
(もとおりのりなが)
さくら(桜)
「しき島の
やまとごころを 人とはば
朝日ににほふ 山ざくら花」
(敷島の 大和心を 人問はば
朝日に匂ふ 山桜花)
本居宣長
■良寛 1758年~1831年
(りょうかん)
さくら(桜)
「散る桜 残る桜も 散る桜」
良寛
くり(栗)
「月夜見(つきよみ)の
光を待ちて 帰りませ
山路は栗の いがの多きに」
良寛
■酒井抱一 1761年~1829年
(さかいほういつ)
つわぶき(石蕗)
「石蕗(つわぶき)の
日陰は寒し 猫の鼻」
酒井抱一
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■小林一茶 1763年~1828年
(こばやしいっさ)
さくらそう(桜草)
「我が国は
草も桜が 咲きにけり」
小林一茶
(「桜草」は、花の形も色も、
「桜」に似ている)
すずな(菘)(蕪(かぶ))
「おく霜の
一味付けし
蕪(かぶら)かな」
小林一茶
つつじ(躑躅)
「百両の
石にもまけぬ
つつじ哉(かな)」
小林一茶
くりんそう(九輪草)
「九輪草
四五輪草で 仕舞けり」
小林一茶
あじさい(紫陽花)
「紫陽花の
末一色(すえひといろ)と
なりにけり」
小林一茶
くり(栗)
「栗拾ひ
ねんねんころり 云いながら」
小林一茶
ねむのき(合歓の木)
「合歓咲く
七つ下りの 茶菓子売り」
小林一茶
むくげ(木槿)
「それがしも
其(そ)の日暮らしぞ
花木槿」
小林一茶
なでしこ(撫子)
「御地蔵や
花なでしこの 真中に」
小林一茶
ちゃ(茶)
「朝々や
茶がむ(う)まく成る
霧おりる」
小林一茶
われもこう(吾木香)
「吾亦紅
さし出て花の つもりかな」
小林一茶
つわぶき(石蕗)
「ちまちまと した海もちぬ
石蕗(つわ)の花」
小林一茶
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<明治時代以降>
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■正岡子規 1867年~1902年
(まさおかしき)
かき(柿)
「柿食へば
鐘が鳴るなり 法隆寺」
正岡子規
たけ(竹)
「筍(たけのこ)や
目黒の美人 ありやなし」
正岡子規
ふくじゅそう(福寿草)
「水入りの
水をやりけり 福寿草」
正岡子規
はこべ(繁縷)
「カナリヤの
餌に束ねたる はこべかな」
正岡子規
つくし(土筆)
「くれなゐの
梅ちるなべに 故郷(ふるさと)に
つくしつみにし 春し思ほゆ」
正岡子規
ぼたん(牡丹)
「一輪の
牡丹かがやく 病間かな」
正岡子規(まさおかしき)
ふじ(藤)
「瓶にさす
藤の花ぶさ みじかければ
畳の上に とどかざりけり」
正岡子規
ぜにあおい(銭葵)
「鴨の子を
盥(たらい)に飼ふや 銭葵」
正岡子規
ばら(薔薇)
「薔薇深く
ぱあの聞(きこ)ゆる 薄月夜」
正岡子規
「くれなゐの
二尺伸びたる 薔薇の芽の
やはらかに 春雨のふる」
正岡子規
うつぎ(空木)
「押しあうて
又卯の花の 咲きこぼれ」
正岡子規
あじさい(紫陽花)
「紫陽花や
はなだにかはる きのふけふ」
正岡子規(まさおかしき)
くちなし(梔子)
「薄月夜
花くちなしの 匂いけり」
正岡子規
こうほね(河骨)
「小ぶなとる
わらはべ去りて 門川の
河骨の花に 目高群れつつ」
正岡子規
さいかち(皂莢)
「皂莢(さいかち)に
秋の日落つる 小窓かな」
正岡子規
さざんか(山茶花)
「山茶花を
雀のこぼす 日和かな」
正岡子規
いちご(苺)
「もりあげて
やまいうれしき
いちご哉(かな)」
正岡子規
へちま(糸瓜)
「糸瓜咲いて
痰(たん)のつまりし 仏かな」
「痰一斗(たんいっと)
糸瓜の水も 間に合はず」
「をととひの
へちまの水も 取らざりき」
正岡子規の、辞世の三句
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■夏目漱石 1867年~1916年
(なつめそうせき)
はす(蓮)
「ほのぼのと
舟押し出すや 蓮の中」
夏目漱石
ふよう(芙蓉)
「反橋(そりばし)の
小さく見ゆる 芙蓉かな」
夏目漱石
■河東碧梧桐 1873年~1937年
(かわひがしへきごとう)
ふよう(芙蓉)
「草とって
芙蓉明らかに なりにけり」
河東碧梧桐
つばき(椿)
「赤い椿 白い椿と 落ちにけり」
河東碧梧桐
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■高浜虚子 1874年~1959年
(たかはまきょし)
おおいぬ(大犬)のフグリ
「犬ふぐり
星のまたたく 如くなり」
高浜虚子
うめ(梅)
「道ばたの
風吹きすさぶ 野梅かな」
高浜虚子
えにしだ(金雀枝)
「えにしだの
黄色は雨も さまし得ず」
高浜虚子
しゃが(著莪)
「紫の 斑(ふ)の仏めく
著莪の花」
高浜虚子
ははこぐさ(母子草)
「老いて尚
なつかしき名の 母子草」
高浜虚子
あさがお(朝顔)
「暁(あかつき)の
紺朝顔や 星一つ」
高浜虚子
きょうちくとう(夾竹桃)
「病人に 夾竹桃の 赤きこと」
高浜虚子
さるすべり(百日紅)
「炎天の 地上花あり 百日紅」
高浜虚子
くず(葛)
「葛の風
吹き返したる 裏葉かな」
高浜虚子
われもこう(吾木香)
「吾も亦(また)
紅(くれない)なりと
ひそやかに」
高浜虚子
さざんか(山茶花)
「山茶花の
花や葉の上に 散り映えり」
高浜虚子
ひいらぎ(柊)
「柊の 葉の間より 花こぼれ」
高浜虚子
つばき(椿)
「ゆらぎ見ゆ 百の椿が 三百に」
高浜虚子
ふゆぼたん(冬牡丹)
「そのあたり
ほのとぬくしや 寒ぼたん」
高浜虚子
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■与謝野晶子 1878年~1942年
(よさのあきこ)
ひなげし(雛罌粟)
「ああ皐月(さつき)
仏蘭西(フランス)の野は
火の色す
君も雛罌粟(こくりこ)
われも雛罌粟(こくりこ)」
与謝野晶子
ひまわり(向日葵)
「髪に挿(さ)せば
かくやくと射る 夏の日や
王者の花の
こがねひぐるま」
(ひぐるま=ひまわり)
与謝野晶子
いちょう(公孫樹)
「金色の
ちひさき鳥の かたちして
銀杏散るなり 夕日の岡に」
与謝野晶子
■斎藤茂吉 1882年~1953年
(さいとうもきち)
ばら(薔薇)
「ほいいままと
いう人言は さもあらば
あれくれなゐ深き
ばらを愛でつも」
斎藤茂吉
つわぶき(石蕗)
「いくたびか
時雨(しぐれ)のあめの
かかりたる
石蕗の花も つひに終はりぬ」
斎藤茂吉
ゆずりは(譲葉)
「しずかなる
冬木のなかの ゆずる葉の
のほふ厚葉に 紅のかなしさ」
斎藤茂吉
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■若山牧水 1885年~1928年
(わかやまぼくすい)
じんちょうげ(沈丁花)
「沈丁花
いまだは咲かぬ 葉がくれの
くれなゐ蕾(つぼみ)
匂ひこぼるる」
若山牧水
「沈丁花
みだれて咲ける 森にゆき
わが恋人は 死になむといふ」
若山牧水
われもこう(吾木香)
「吾木香
すすきかるかや 秋草の
さびしききはみ 君におくらむ」
若山牧水
つばき(椿)
「昼の井戸
髪を洗ふと 葉椿の
かげのかまどに
赤き火を焚く(たく)」
若山牧水
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■北原白秋 1885年~1942年
(きたはらはくしゅう)
ばら(薔薇)
「大きなる
紅ばらの花 ゆくりなく
ぱっと真紅に ひらきけるかも」
北原白秋
ひまわり(向日葵)
「向日葵の
ゆさりともせぬ 重たさよ」
北原白秋
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■石川啄木 1886年~1912年
(いしかわたくぼく)
やなぎ(柳)
「やはらかに
柳あをめる 北上の
岸辺目に見ゆ 泣けとごとくに」
石川啄木
うめ(梅)
「白梅や
ひと日(ひ)南を あこがれぬ」
石川啄木
■木下利玄 1886年~1925年
(きのしたりげん)
ぼたん(牡丹)
「牡丹花は
咲き定まりて 静かなり
花の占めたる 位置のたしかさ」
木下利玄(きのしたりげん)
■芥川龍之介 1892年~1927年
(あくたがわりゅうのすけ)
もも(桃)
「白桃や
莟(つぼみ)うるめる 枝の反り」
芥川龍之介
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■水原秋桜子 1892年~1981年
(みずはらしゅうおうし)
まんさく(満作)
「まんさくや
小雪となりし 朝の雨」
水原秋桜子
しゃくやく(芍薬)
「芍薬や 棚に古りける 薬箱」
水原秋桜子
あさがお(朝顔)
「朝顔や 客が好みの 立ち話」
水原秋桜子
ほおずき(鬼灯)
「籠(かご)かばふ
鬼灯市の 宵の雨」
水原秋桜子
はぎ(萩)
「萩の風
何か急(せ)かるゝ 何ならむ」
水原秋桜子
きく(菊)
「冬菊の
まとふはおのが ひかりのみ」
水原秋桜子
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■(筆者)
だいず(大豆)
「豆残る
2月4日の 軒の下」(筆者)
さくら(桜)
「雪のごと
花つもるなり 春の風」(筆者)
きんもくせい(金木犀)
「散らし雨
道端染める 金木犀」(筆者)
1992年
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俳句・短歌 1 (万葉集)
俳句・短歌 2 (奈良、平安、鎌倉)
俳句・短歌 3 (江戸、明治以降)
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